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東京地方裁判所 昭和40年(ヨ)2209号 決定 1966年2月26日

申請人 千々松清 外二名

被申請人 全日本空輸株式会社

主文

一、申請人らが被申請人に対し労働契約上の権利を有する地位を仮に定める。

二、被申請人は、昭和四〇年五月以降本案判決確定に至るまで毎月二五日限り、申請人千々松に対し金三七、八六〇円、同石田に対し金三六、四二〇円、同福西に対し金三七、二六〇円を各仮に支払え。

三、申請費用は、被申請人の負担とする。

(注、無保証)

理由

第一、申請の趣旨

主文同旨

第二、申請の理由

一、被申請人(以下「会社」という。)は航空運送事業を営む会社である。

申請人千々松は、昭和三一年一二月極東航空株式会社に雇われ、昭和三三年吸収合併により同社から引続いて会社に雇われ整備員として勤務していたが、昭和三九年九月二五日付を以て整備部整備訓練課訓練係となり整備員の教育訓練に当つてきた。

申請人石田は、昭和三六年七月一日会社に雇われ、整備部定時整備課の整備員として勤務してきた。

申請人福西は、昭和三六年四月一日会社に雇われ、整備部耐空性管理課(羽田空港所在)に勤務していたが、昭和三八年八月一日名古屋の整備部外註工場に転勤し、更に昭和三九年一〇月一日からは名古屋運航出張所外註工場係として整備に当つてきた。

二、全日本空輸労働組合(以下「組合」という。)は昭和三三年に結成され、会社の従業員の殆んど(運航乗務員約二五〇名は別に全日本空輸乗員組合を結成している。)約一四〇〇名を擁する労働組合であり、申請人千々松は組合結成と同時、同石田は昭和三七年三月、同福西は昭和三六年一〇月に組合に加入し、昭和三九年七月、申請人千々松は執行委員長、同石田は副執行委員長、同福西は書記長は選出され、現在に至つている。

三、組合は、昭和四〇年(以下「昭和四〇年」の記載を省く。)四月二七日午後一時から同二時まで全組合員の時限ストライキ(以下「本件全員スト」という。)を行つたところ、翌二八日会社は申請人三名に対し懲戒解雇の意思表示(以下「本件解雇」という。)をした。その解雇理由は、<組合が行つた本件全員ストは、一〇日前までにストライキの具体的内容を会社に予告しないまゝで行われた点において会社の事業の公益性を弁えず、労働関係調整法(以下「労調法」という。)の精神に反するものであり、かゝる違法不当なストライキを企画決定実施した責任は申請人ら組合三役にあり、これにより旅客に不安と迷惑を与え、会社の社会的信用を傷つけ、損害を与えたものであるから、就業規則五四条七号により懲戒解雇に処する。>というにある。

四、しかしながら本件解雇は、正当な組合活動をしたことの故をもつてしたものであるから無効である。

(一)  本件全員ストに至る経過

1 組合は職場討議を基礎に春闘要求を組織し、三月二八日組合規約に基づく代議員総会を開き、賃上げ、住宅手当等諸手当の増額、就労時間短縮等の要求を含む二〇項目にわたる春闘要求事項を決定した。

2 四月五日組合は、団体交渉の席上会社に対し、さきに決定した要求書を提出し、文書と口頭で説明を行つた。

3 四月一一日組合は、組合規約に基づき代議員総会を開き、労調法三七条の手続と期間が経過した後ストライキを含む争議行為を行うこと、その方法、規模、時期は執行委員会に一任することを決議した。

4 四月一二日組合は、労調法三七条に定めるとおり中央労働委員会(以下「中労委」という。)及び労働大臣に対し、組合が四月二三日午前〇時以降紛争解決に至るまでの間争議行為をする旨の通知を行つた。

5 四月一四日組合は、会社に「争議行為の実施について」と題する同日付書面を提出し、紛争が解決しないときは四月二三日午前〇時より解決までの期間ストライキを含む争議行為を行うことを予告した。

6 労働大臣は、前記4の争議通知をうけ、四月一九日付官報に通知の内容を公表した。

同日組合は、委員長の名を以つて「四月二七日午後一時から午後二時に至る間、一時間の時限ストライキを行うので、全組合員を参加させよ。なおこの時間職場大会を行え。」と指令し、同時に会社にもその旨の通知を「争議行為の実施について」と題する文書で行つた。

7 四月二六日まで五回にわたり団体交渉が行われたが、組合の賃上げ要求(組合員平均四、九〇〇円)に対して、会社回答は組合員平均一、二二〇円にすぎず、ほかに一、二の手当について若干の増額回答がなされたのみで、その他の項目については所謂ゼロ回答であつた。

8 組合はやむなく四月二七日午後一時から二時までの一時間全職場でストライキを実施したが、その間組合員は、職場から退去し職場外で集会を行い、スト終了と同時に職場に復帰した。

(二)  本件全員ストの正当性

1 組合と会社との間には労働協約は締結されておらず、従つて組合は争議行為に関する事前通告の義務を負つていない。

2 組合は、会社の営む定期航空運送事業は労調法八条一項の公益事業に該当するとの労働省の見解に従つて前記(一)4のとおり労調法三七条の通知をしたが、右通知が前記(一)6のとおり官報に公表されたことは、通知手続が適法になされたことを示すものである。

3 会社は、組合は争議行為の具体的内容を一〇日前までに会社にも予告すべきであり、それは会社事業の公益性と労調法の精神に由来するものであるというけれども、公益性を考慮に容れゝばこそ労調法三七条は、公益事業において所謂抜打争議による公衆の不慮の損害を未然に防止するため労働委員会および労働大臣または知事に対する通知義務を課しているのであつて、使用者に予告すべき義務を定めたものではない。

4 本件全員ストは組合において労調法三七条の手続を履んだ上同条の定める期間経過後に行つた適法なものである。なお、本件全員ストは組合が結成以来行つた最初のストライキであり、しかも組合は、使用者に対する争議行為予告義務はないのであるが、前記(一)56のとおり会社に対し二回にわたりその予告を行つている。

(三)  本件全員ストは正当な争議行為であり、これを企画、決定、実施したことを理由になされた本件解雇は、不当労働行為として無効である。

五、(一) 以上により、申請人らは会社に対し、いぜん労働契約上の権利を有することが明らかであるのに、会社はこれを否定し五月分(同月二五日に支給すべき分)以降の賃金を支払わない。

(二) 申請人らの本件解雇当時の平均賃金月額は、千々松が金三七、八六〇円、石田は金三六、四二〇円、福西が金三七、二六〇円であり、賃金の内、本俸、地上勤務者特別手当、家族手当は毎月一日より末日までの分を当月二五日に、時間外勤務手当、深夜勤務手当は毎月一日より同月末日までの分を翌月二五日に支給する定めであつた。

(三) 申請人らは、会社から受ける賃金を生活の資としてきたから、これが無い以上その生活を維持することはできない。申請人らは会社に対し労働契約関係存在確認と賃金支払請求の本訴を提起すべく準備中であるが、前述の申請人らが被り又被るおそれのある損害は、本案の勝訴判決の確定を待つてはとうてい回復することができない。

よつて申請人らは著しい損害を避けるため本申請に及ぶものである。

第三、申請の理由に対する答弁

一、申請理由一の事実は認める。

二、申請理由二の事実中、組合の結成及び申請人らの組合加入の時期は不知、その余は認める。

三、申請理由三の事実中、本件解雇が申請人らの本件全員ストのみについて責任を問うものであることを否認するが、その余は認める。

四、申請理由四冒記の主張は争う。

(一)  同(一)の事実は、次の点を除いて認める。

1 同1の事実中、春闘要求事項決定の経緯については不知。

2 同3の事実は知らない。

3 同4の事実のうち、組合の四月一二日付中労委及び労働大臣への通知が労調法三七条に合致するものであること及びその通知の内容は争う。

4 同5の事実中、組合の四月一四日付書面に記載された争議行為を行うべき日時が、四月二三日午前〇時より解決までの期間とされていたことは否認する。右書面に記載された争議行為の日時は昭和四〇年四月二二日以降となつていた。

5 同7の事実中組合の賃上げ要求及びこれに対する会社回答の内容は否認する。組合の賃上げ要求は組合員平均で定期昇給分二、〇三八円のほかに六、二三四円の増額を内容とするものであり、会社回答額は、定期昇給分を含めて、組合員平均三、六四〇円であつた。

(二)  同(二)及び(三)の主張は、争議行為予告につき労働協約上の義務はないとの点を認めるほか、すべて争う。

五、申請理由五の事実中、(一)の申請人らが会社に対し労働契約上の権利を有するとの点及び(三)の事実を争い、その余は認める。

第四、会社の主張―本件解雇の正当性

一、申請人らに対する本件解雇の理由

組合は、四月二七日午後一時から二時まで全面時限ストライキ(本件全員スト)を行つたほか、同日午前零時より四月三〇日午後一二時まで中央闘争委員一二名全員の指名ストライキ(以下「中闘指名スト」という。)及び四月二七日午前零時より午後一二時まで支部闘争委員一四名の指名ストライキ(以下「支闘指名スト」という。)を行つた。

ところで、右各争議行為は、次に述べるような理由でいずれも違法不当な争議行為であり、申請人らは組合の中央闘争委員長、同副委員長、同書記長として、これを企画、決定、実施せしめて、故意に会社に著しい損害を発生させ会社の信用を傷つけたものであるから、会社の就業規則五四条(懲戒解雇事由)七号『故意又は重大な過失により会社に著しい損害或は事故を発生させ、又は会社の信用を傷つけたとき』に該当するものである。

二、組合の争議行為の違法不当性

前記組合の争議行為は、労調法三七条に違反し、かつ、争議権の濫用にわたる違法不当な争議行為である。

(一)  労調法三七条違反

1 会社は労調法八条一項一号に該当する公益事業(定期航空運送事業)を営むものであるが、同法三七条一項の趣旨は、公益事業が一般公衆を対象とし、争議行為によつてその運営が阻害せられるときは、使用者のみならず一般公衆にも被害が及ぶものであるから、事前の予告により公衆をして被害避止に必要な措置を講ぜしめるためと、使用者をして争議行為回避のため一段の工夫努力をさせ、もしそれが不可避であれば公衆の被害の可及的防止のため万全の策を講ぜしめるためであり(大阪地裁昭和三六年五月一九日判決、国際電々事件、労働民集一二巻三号)、従つて、同条の通知は、一般公衆及び使用者が、それによつて当該争議行為によつて生ずべき業務阻害の態様を予見するに足りる程度の具体的内容を具備するものでなければならない。そうでなければ、一般公衆の争議行為による被害避止に必要な措置も、使用者による公衆の被害防止のための必要最少限の措置も講ずることが出来ないからである。労調法施行令一〇条の四第三項が「争議行為をなす日時及び場所並びに争議行為の概要」を文書によつて通知すべきものとし、更に昭和二七年九月一五日労発第一六七号労政局長通牒が通知書の記載事項を詳細に定めているのも当然と言うべきである。

2 然るに、組合の争議行為通知書(第二、四(一)4)には、(1)争議行為の「日時」として、「四月二三日午前零時以降本問題の完全解決に至るまでの期間」とあるが、その趣旨は四月二三日午前零時以降何時具体的な争議行為をするかもわからないということであつて争議行為の始期及び終期を何ら確定するものではなく、とくに一般公衆にとつては、その時期を全然予知し得ないところであつて、結局、争議行為の日時を全く記載しないのに等しい。(2)争議行為の「場所」として「組合に所属する組合員の従事している全職場」とあるが、一般公衆には、会社の従業員中の何人が組合に所属しているか判らないので当該争議により被害の生ずる虞れのある職場がどこであるのか、右通告のみによつては知る由もない。(3)更に、争議行為の「概要」として「ストライキを含む一切の争議行為の一部または全部を単独に又は併用して実施する」とあるが、かかる記載から、いかなる態様範囲の争議行為が行われ、その結果いかなる業務の停止、渋滞を生ずるか判明せず、右によつて一般公衆に被害阻止に必要な措置を講ぜしめることは至難である。

3 組合が、四月一二日の時点でかかる全く内容のない争議行為通知をしたのは、全く理由のないことではない。すなわち、仮に四月一一日の組合代議員総会において申請人ら主張のとおりの決議がなされたとしても、右決議内容は四月二三日以降具体的に争議行為に入ることではなく、同日以降若し現実に争議行為に入る場合には、その方法、規模、時期を決定する権限を闘争委員会に一任すると云う、いわゆる権限授与の決議にすぎず、かかる授権を受けた闘争委員会が右通知をなすまでに争議行為の具体的内容はおろか、現実に争議行為を行うか否かすら決定した事実はなかつたのであつて、そもそも、かかる段階にも拘らず労調法三七条の争議行為の通知をなすこと自体謬つていたのである。

4 このように組合の争議行為通知が労調法三七条の要件を全然充足していないことは明白であり、かかる通知もなお労調法三七条の通知に該ると解することは、公衆保護どころか却つて徒らに公衆を不安困惑に陥らしめるものである。何となれば、一旦かかる通知があつた場合、一般公衆としては、果して具体的な争議行為が実施されるかどうかを判断し得ないままに、あるいは不必要に当該公益事業を利用し得ず、あるいは不安に脅えながら敢て利用し偶々具体的争議行為に遭遇して取り返しのつかない損害を蒙ることにもなり、また使用者の側から言つても、全く同様の理由で、公衆の迷惑を防止するための所要の措置をもとり得ないことになるからである。公益事業における争議制限を敢えて規定した労調法三七条が、かかる状態を容認しているものとは絶対に考えられない。本件争議に関し組合の行つた争議通知は労調法三七条の要件を著しく欠き、結局本件争議行為は労調法三七条にもとづく通知義務を遵守せず適法な通知を行わずして実施されたものと言わざるを得ず、かかる争議行為は使用者に対する関係においても違法であり、労働組合法上の免責を失うものと言わねばならない。

(二)  争議権の濫用

1 会社が経営する定期航空運送事業は、同じく公益事業たる運輸事業の中でも私鉄、バス等の場合とは違つて、著しく特殊な事情を帯有する。その顕著な点をあげれば、(1)運営する範囲が日本全国、遠くは奄美、沖繩、八丈等の離島に及んで居り、しかもその業務は著しく代替性に乏しい。すなわち、我が国の場合、東京、大阪、札幌、福岡等の間を結ぶいわゆる幹線航空路は、会社のほか日本航空や日本国内航空等の定期便が就航しているけれども、それ以外の東北、裏日本、山陰、四国、九州南部あるいは離島等を結んでいる航空路の場合は、併行路線は殆ど皆無に等しい。近年我が国の飛行機利用旅客の数は年々飛躍的な増大を示して居り、会社の実績によつてみるに、昭和三九年の年間旅客数は二、一九六、〇六五名で昭和三四年の約八倍以上に激増し、昭和四〇年には更に増加の勢を示して、四月の月間旅客数二二二、九九九名、一日平均七、〇〇〇名以上という大きな数字に達し、今や定期航空運送事業は国民大衆にとつて不可欠且つ身近かなものとして発展しその運営は国民生活と密着している。加うるに公衆が飛行機を利用しようとする場合、一般に他の交通機関におけるよりもはるかに緊急かつ重要な用務を帯びて長距離区間を往来することが多く、それだけに不測の事情によりその利用を阻止せられた場合に公衆の蒙る被害は深刻たらざるを得ない。特に併行便を欠く路線においては他に補充代替の手段を欠き、その被害は回復すべからざるものとなる虞れがある。(2)利用者は、予め航空券を購入して搭乗を予約した旅客ばかりである。もともと遠距離の時間的に限定された性質の旅行に利用される飛行機旅行において、搭乗予約がなされるときは、通常既に、その旅行全体の予定、すなわち、目的地において果たすべき用務の段取りや到着先での宿泊、乗り継ぎ交通機関の予約等もすべて決つていると考えられ、出発点又は中間点において予定が齟齬すれば、爾後の計画は全部狂つて来て、取返しのつかない結果を来たすこととなる。しかも、この搭乗予約は、出発の日よりも相当以前から行われ、会社の場合予約受付は一ケ月前から開始されるが、例えば、搭乗日より一〇日前の時点における通常の予約率は、東京を出発する一日五二の便について約三〇%、大阪行一六便を除く三六便については約四三%の高率を示している。

2 一般に運輸事業は、受託した旅客あるいは貨物の輸送を確実に遂行することを事業の生命とし、これに対する信頼性が事業存立の根本的基盤をなしているが、就中会社の場合は、運輸事業の中でも右に述べたような特殊事情からして、万一引受けた輸送業務を円滑に遂行出来ない場合において生ずべき被害の程度が大きく、しかも他に補填する方法もない点において、要求される信頼性の度合いも一段と高く、かりそめにもこの信頼性に瑕疵を来すようなことがあれば、直接事業存立の基盤を危うからしめる重大事と言わねばならない。

3 ところで、前述のような著しい特殊事情を有する会社としては、争議行為により定期便の運航に阻害を生ずる虞のある場合には、事前に利用者公衆の被害を防止あるいは軽減するためあらゆる努力を傾注しなければならない。すなわち、先ず、欠航あるいはその虞のある便については、直ちに爾余の予約受付を停止すると共に、既に予約済みの旅客に対して個個人ごとに連絡をとつてその旨を報らせなければならないが、各人ごとに連絡をつけることは、容易でない(旅客の連絡先を記入した搭乗申込書は、会社直営の営業所、総代理店、一般代理店、取次店等全国約一、四三〇ケ所にのぼる各受付窓口に散在保管されているので、予約客全部について各人の申込窓口がどこかを調べ、各店舗挙げて予約客への連絡に努めなければならない。)。次いで、連絡のとれた予約客各人ごとに代替輸送手段や宿泊施設、目的地到着後の乗継ぎ輸送手段等について希望を聞き、できるだけ当初の旅行目的に障碍を来たさない方法を講じなければならないが、各人に納得して貰えるような対策を講ずるための労力、手数は、尋常一様のものではない。

このように、争議行為のため運航が阻害され又はその虞れがある場合会社が払わなければならない労力・手数の負担は非常に大きいけれども、公益事業の担当者として公衆の損害避止のため最大限の努力を払うべき社会的義務を課せられ、また高度の信頼性を以て事業存立の基盤とする会社としては、上記作業を完遂しなければならない。

4 ところで、上記作業を遂行するについては、先ずすべての予約客に連絡をつけるだけでも優に三、四日間を要し、爾余の措置を完遂するためには、どうしても一週間の時間的余裕を必要とする(それは会社の運航路線が多方面に亘り、それに応じて予約客が全国的に散在し、また会社の営業組織が少数の直轄営業所の余は全国に散在する一般代理店、取次店網に依存しているため、上記作業はすべてこの系列に沿つて実施しなければならないと云う特殊事情にもよる。)。もし組合がいきなり全面無期限ストライキに入るならば、必然的に全便欠航となつてしまうが、部分ストライキあるいは時限ストライキの方法をとる場合には、会社として一般公衆の不便を軽減するために、管理職、非組合員等を動員して能う限り飛行便を維持することに努めねばならない。そのためには先ず時刻表上どの便を欠航とするかを決定しなければならないが、欠航便の選択に当つては、ストライキ参加者の顔触れ、各便の就航距離の長短、代替性の難易、利用者の多寡、経済性等凡ゆる事情を慎重考慮する必要があるので、そのための時間的余裕が更に必要となる。

5 本件の場合、組合の会社に対する争議行為の通告は、四月二七日午後一時からの本件全員ストについては同月二〇日、四月二七日午前零時からの中闘指名ストについては同月二六日午後一〇時であり、四月二七日午前零時からの支闘指名ストについては無通告のまま抜打的にストライキに突入した後、同日午後三時に至つてなされた。

かような争議行為実施の態様は、会社が利用者公衆に対して損害避止義務を負うことを根本的に否定し、会社事業存立の基盤として要請される最高度の確実性、信頼性を積極的に破壊せんとするものと断ぜざるを得ない。およそ争議権保障の本旨はよりよき労働条件を追求する団体交渉を実質的に担保せんとするにあるが、上記のようによりよき労働条件を生み出す母体たるべき事業存立の基盤を破壊し事業そのものを危殆に導く結果となるような争議行為は、明らかに争議権の保障本来の趣旨を逸脱した不当なる権利行使として、争議権の濫用と言わねばならない。

なお、以上の事理は、争議行為が少数の指名ストライキの場合であつても異なるものではない。すなわち、組合の構成員には、客室乗務員(スチユアデス)、運航管理者(デイスパツチヤー)、確認整備士、航空機関士等いずれもその一人でも欠ければ当該飛行便を運航できなくなるような役割を持つ従業員をすべて包含し、その指名ストライキにより招来される運航の停止は、全面ストライキの場合と何等異なるところがないからである。

6 本件争議の場合、もし組合が争議行為実施の一〇日以上以前にその具体的内容を会社に通告したとしても、組合は申請人ら主張のとおり運航乗務員を除く会社の従業員の殆んどすべて(前述した客室乗務員、運航管理者、確認整備士から航空機関士まで)を組合員に擁しており、航空事業の急激な膨張により右事業に経験のある遊休労働力の皆無に等しいわが国の現状からすれば、俄かに他所から臨時代替要員を求めることは不可能であるから、会社はこれら組合員がストライキに突入した場合には飛行便を欠航させる外はない。従つて、たとえ組合が争議行為の具体的内容を一〇日以上前に公表予告したとしても、会社はその実効を減殺する方策もなく、組合のストライキの目的は完全に達成されることとなる。にも拘らず組合が敢て本件争議行為を前記のごとき態様において実施することは、単にストライキ本来の効果として会社に経済的損失を蒙らしめる以上に、不必要に一般公衆に迷惑、損害を強いるのみならず、よつて生ずる不必要な混乱と社会的攻撃乃至は信用失墜をもつて会社に対する圧力とし、要求貫徹のため不公正なる武器として悪用しようとするものであつて、かかる行為が争議権の行使の正当の限界を著しく逸脱し、権利濫用に亘るものであることは、明らかである。

7 会社では、組合結成以来争議行為に及ぶ労使紛争はなかつたが、組合は、昭和三九年春闘時(五月六日)及び秋闘時(一一月八日)にそれぞれ中労委、労働大臣に宛て争議行為の通知をしており、右通知はいずれも、本件の場合と同様内容不明確で労調法三七条の要件を充さないものであつた。

そこで、会社は、昭和三九年五月以降団体交渉においてあるいは争議協定提案の形で、あるいは通告書若しくは警告書の形で、組合に対し上記縷述のような会社の所信を繰り返えし訴えて一〇日前の具体的争議行為予告を労使慣行として樹立するよう要請してきた。

他方、会社が全日本空輸乗員組合との間に締結していた労働協約二八条には『争議行為を開始しようとするときは、争議行為開始の一〇日前までに、文書を以てその開始日時、期間、概要を相手方に通知する』旨の規定がある。

すなわち、叙上の趣旨は会社が今次争議に至つて俄かに主張要請し始めたことではなく、現に同一企業内の乗員組合において右要請が実現されているのを知りながら、申請人らがなお前記態様の違法な争議行為を敢て企画、指令、実施せしめたとすれば、その情状は、極めて重いものがある。

第五、会社の主張に対する申請人らの答弁・反論

一、答弁

(一)  会社の主張の事実中、組合が会社主張のような内容のストライキを行つたことは認めるが、その余は否認する。

(二)  会社の主張二冒記の主張は争う。

1 同(一)の事実中、会社主張のような法令の規定、判決、労政局長通牒があることは認めるが、その余はすべて争う。

2 同(二)1ないし4の事実中、定期航空運送事業には他の企業と異る特殊性があること、企業が一般に信頼性を必要とすること、欠航の場合には利用者に一定の連絡をすることとなるが、それにはある程度の手数、時間を要することは認めるが、その余は争う。

同5、6の事実は否認する。

会社主張の各ストライキについては、会社に対しても四月一四日に予告した上、同月一九日さらにその具体的内容を通告しており、各指名ストについては直前にも連絡している。

同7の事実については、申請人らの責任、情状に関する主張部分を争うほか、すべて認める。

二、解雇理由に対する反論

(一)  労調法三七条違反の主張について。

1 組合がした本件争議通知(申請の理由四(一)4)の正当性について

労調法三七条の争議行為通知の規定は、憲法二八条によつて保証された争議権を制限するものであつて、その解釈、運用については極めて慎重を要し、とくに右規定違反は刑事制裁の対象となるから、罪刑法定主義の立前からしてもその構成要件についてみだりに拡大類推解釈をしてはならない。

労調法三七条が抜打ちストによる公衆の迷惑を防止するため組合に要求しているのは、一〇日前の予告通知であつて、それ以上に具体的な争議戦術の予告まで要求するものではない。

その意味では労調法施行令一〇条の四第三項が通知について争議行為をなす日時、場所、争議行為の概要の記載を求めていることは、労調法三七条の規定の範囲を超えた要求をして争議権を不当に制限しているとも考えられる。それだけにその解釈、運用上憲法の保障する争議権を公益的理由から必要な最少限制限するという本来の趣旨を没却しないよう最大限の考慮がはらわれなければならないし、実務上の取扱においても通知内容の記載については慎重を期し、会社が主張するように、予め争議行為の実施計画全般につき細部にわたる通知を求めていない。それは争議状態における流動的な労使関係の下で当然なことであり、本件予告通知とはほぼ同程度の記載が労調法三七条に基く通知の内容として既に慣行的に確立されているといつてさしつかえない。現に、労働大臣、中労委とも異議なく受領し、官報に公表していることは既述のとおりであつて、学説も、申請人らの主張と同様の理由から、通知内容には弾力性を認むべきであるとして、右慣行化された実務上の取扱を支持している。

2 労調法三七条違反が対使用者関係でも違法になるとの主張について

労調法三七条の趣旨は前述のとおり専ら公衆の迷惑を防止するにあり使用者が争議行為によつて受ける打撃を防止するための規定ではない。したがつて仮に同条違反の争議行為があつたとしても、それは刑事罰の対象になるだけであつて対使用者との関係で争議が違法となるものではない。労調法三七条等対公衆への配慮という点を除けば、公益事業における争議行為も争議権の行使として民事、刑事の免責を得られるのは当然である。

なお、本件において組合は、労働協約その他いかなる意味でも使用者に対しては争議予告の義務を負つていないのにかかわらず、再三にわたり会社に対して争議に関する通告をしている(申請の理由四(一)5、6)。しかも四月一四日の通告には「旅客、航空機の安全に必要な最少限の人員は争議に参加させない」との配慮まで記載してあり、四月一九日の通告(申請の理由四(一)6)には、四月二六日より中央闘争委員等を指名ストに参加させること、全組合員が四月二七日午後一時から一時間と四月三〇日午後一時から三時間の時限ストをそれぞれ行うことを明記しているのであるから、内容としても極めて具体的であつて、抜打ストの非難は全くあたらず、対使用者との関係で責任を生ずる余地は皆無である。

(二)  争議権濫用の主張について

会社の企業の特殊性は、公益性という観点から既に労調法三七条の中に組みこまれており、それ以上に争議行為を制限する根拠とはならず、労調法所定の手続を経て行われた争議行為が、企業の特殊性ということだけで違法になるということはない。

会社は争議行為の態様を問題にしているが、抜打ストであつたとの非難は事実無根のものであつて、会社の真のねらいは、争議行為をしたこと自体を攻撃し、結局労働者の争議権そのものを否定するにほかならない。

(三)  解雇理由に関する会社の主張変動について

会社は本件解雇の時点では、会社に対し一〇日前までにストライキの具体的内容を予告しなかつたことを唯一の解雇理由とし、しかも、それが労調法三七条に直接違反するのではなくその精神に反するという主張をしていた。すなわち右段階では労働大臣等に対する通知の内容が具体性を欠くという意味で労調法三七条に違反するとの主張は全くしていなかつたが、本件訴訟で新たに右意味の主張及びそのことが対使用者の関係でも違法になると主張するに至つた。のみならず従来一言も触れていなかつた争議権濫用の主張を追加し、さらには、解雇理由を、解雇の意思表示をした二八日以後の指名ストにまで拡大している。

右のような会社の解雇理由に関する主張の変動、不明確性は、それ自体不当労働行為の成立を裏づけるものとなる。

第六、申請人らの反論に対する被申請人の再反論

一、申請人らの反論(一)に対して

(一)  労調法三七条は憲法二八条の争議権を制限する機能を持ち、公益事業における争議行為による公衆の被害を可及的に防止せんとする公共の福祉擁護の為に特に設けられた規定であるから、同条の解釈に当つては、争議行為による公衆の被害を可及的に防止するために如何なる内容の予告通知制度たるべきかが第一義的に考慮されなければならない。同条違反に刑事罰を伴うからといつて同条による通知内容につき規定本来の趣旨を無に帰せしめるような解釈まで正当とされる理由はない。

労調法施行令一〇条の四は、労調法三七条と矛盾抵触し新たに要件を加重したものではなく、同条の要求を忠実且つ具体的に展開したものに外ならない。行政庁における実務上の取扱として、申請人主張のような予告通知をそのまゝ受理していることは事実であるが、右の一事だけでかゝる予告が適法化されないことはもとより、元来右行政庁の取扱は、昭和二七年改正前の旧労調法時代における「公表の制度」を無批判に踏襲しているものであつて、現行法上適法なものとは言えない。すなわち旧法は公益事業における争議行為の未然防止のため調停前置の制度を設け、この場合に労働委員会のなすべきものとされた「公表」については、いまだ具体的争議行為の予定すら確立していない段階にあることが多いから、その内容が労働争議の存在を周知させる程度にとどまり、包括的且つ未確定な要素を含むもので足りるとされたことは当然である。しかし、昭和二七年改正にかかる現行法は、それまでの調停前置の部分を専ら緊急調整の制度に譲り、三〇日間の争議行為の禁止を解く一方、現実に争議行為が発生する場合における一般公衆の迷惑損害の防止に重点をおき、その方法として一〇日以上前の争議行為予告及び公表の制度を採用したのであるから、その通告、公表の内容も右制度の変更に伴い当然変わらなければならないものであり、前掲労政局長通牒は、旧法当時の公表様式を殆んど踏襲するもので、現行法の趣旨にそわない。

次に、争議行為は労使の実力による闘争であるから或る程度の戦術・戦略的要素が介入することは否定できないけれども、かゝる戦術の機動性も、公益性の前にある程度後退を余儀なくされることは止むを得ない。具体的予告をなすことにより争議行為の実効を全く期し得なくなるような特殊な場合は別として、争議行為に通常伴う損害の範囲をこえて徒らに奇襲的効果のみを強調し、本件のような抽象的内容の予告通知を是認することは、一般公衆の犠牲を軽視し労調法三七条本来の意義を没却することとなり許されない。

(二)  労調法三七条は公益保護の規定であり、同条侵犯の争議行為は公の秩序に反するものとして、対使用者の関係でも不当な争議行為となることは、多言を要しない。

二、申請人らの反論(二)に対して

被申請人が会社の特殊事情と、事業の公益性とを混同し同一視するものでないことは主張自体から明白であつて、申請人らの主張はこの点において前提を誤つた理由のないものであるのみならず、争議行為が労調法三七条の手続を経たからと言つて、使用者に対する争議権濫用の点まで一切払拭してしまう筋合のものではない。

三、申請人らの反論(三)に対して

一〇日以上前に会社に対しその具体的内容を通告せずに行なう争議行為が違法不当なものであることは、かねて会社から組合に対し再三に亘つて警告し、この警告に背反した場合には処分に及ぶべきこともはつきりと表明して来たところであつて、本件解雇理由は、従前の会社主張そのものにほかならない。解雇辞令の記載もかような解雇理由を表現するものとして間然するところはなく、本件訴訟中の主張は、右の趣旨を法律上構成詳述したものにすぎず、何等の変更、追加もない。

解雇理由を解雇の日以後の指名ストライキにまで拡大したとの主張も、単なる考え違いにすぎない。中闘指名ストは四月二七日から三〇日までの間を一箇の争議行為として開始されたものであり、その開始の時点においてこれを違法不当な争議行為と判断し、その全部について責任を論じたとしても不思議はない。

第七、裁判所の判断

一、申請理由一、二(組合結成、申請人らの組合加入の時期の点を除く。)の事実、組合が本件全員スト、中闘指名スト、支闘指名ストを行つた事実、会社が申請人らを懲戒解雇にした事実は、いずれも争いがない。

二、右各ストは違法争議行為であるとの被申請人の主張については、次のとおり判断する。

1、労調法三七条違反の主張について

(一) 争いのない事実及び疎明によれば、組合は、昭和四〇年四月一一日組合規約に基づき代議員総会を開いて、労調法三七条の手続を経た後ストライキを含む争議行為を行うこと、その方法・規模・時期は中央執行委員をもつて構成する中央闘争委員会に一任することを決議し、翌一二日中労委及び労働大臣に対し労調法三七条の争議行為通知を行い、右通知は一九日の官報に掲載されたこと、右通知には会社に対する組合の諸要求を掲記した上、『組合員の従事している全職場』において、『四月二三日午前〇時以降本問題の解決に至るまでの期間』『ストライキを含む一切の争議行為の一部または全部を単独にまたは併用して実施する』旨の記載がなされていることが認められる。

(二) 労調法三七条が争議行為予告の制度を設けた趣旨は、公益事業における事業の公共的性質に鑑み、関係行政機関に対する争議行為予告を通じて、公衆にもこれを予知させその日常における迷惑・損害を最少限度に防止する機会を与えると同時に、争議行為の事態を可及的に避けるため労働委員会にその斡旋・調停等の機会を確保するにあるものと解される。もし、争議行為によつて生ずる公衆の迷惑・損害の防止という観点のみからするならば、その予告期間は長ければ長いほどよく、又その予告の内容は何処で、何時、どの様な争議行為が行われるのかが詳細に判るようできるだけ具体的に記載されていることが望ましいといえよう。しかし、争議権が憲法の保障する労働者の団体行動権の重要なものである点を考えると、争議行為の日程・方法等の詳細な具体的内容を一〇日前に公開することを労働組合に要求することは、争議行為の実効性・機動性を著しく減殺する結果となつて争議権保障の実質を失わせてしまう虞があると共に、当事者の争議態度を予め硬直なものとして、予告制度の一半の目的である労働委員会の斡旋・調停ないし当事者の自主解決による争議行為回避のためにも障害となりやすい。更に同条違反が刑事処罰の対象になつていることから考えても、右予告内容の程度について、法令に明記もなく行政上の取扱い慣行とも合致しない厳格な基準を要求することは、解釈上慎重を要するところである。

(三) 組合のした前記争議行為通知の内容は労調法施行令一〇条の四の要求する各項目にわたつており、その記載程度から争議行為の時期・場所・方法・範囲等を極めて概括的且つ蓋然的にせよ予知することができないわけではなく、争議権が労働基本権に属しその制限は公共の福祉上やむを得ない最少限にとどまるべきものであることを考え合わせると、本件争議行為通知はその内容において労調法三七条の要求する最低限を充足した適法なものと認めるのが相当であるから、被申請人のこの点に関する主張は理由がない。

2、争議権乱用の主張について

(一) 争いのない事実及び疎明によれば、次の事実が認められる。

(1) 会社の営む定期航空運送事業は、その運航路線が日本全国に及び、奄美大島・八丈島等他社の併行路線がなく、会社便が欠航した場合には代替の利便を欠く区間も少くない。会社の航空機利用客は昭和四〇年四月本件争議当時一日平均七、〇〇〇名を超え、その多くは一ケ月前より開始される予約の利用者であつて、搭乗日の一〇日前における予約率は三〇パーセント以上に及んでいる。

(2) 会社においては、やむを得ない事由により定期便の欠航・時刻変更等の必要を生じた場合、予約客の被害を可及的に防止するため、直轄営業所のほか総代理店を介し全国一、四〇〇以上にのぼる一般代理店にその旨を通知し、その希望に応じて代替輸送手段の斡旋、宿泊の世話等のサービスの提供を余儀なくされるが、これらの業務を円滑に処理する為には四、五日の余裕を必要とする。

(3) 組合は、三月二八日組合規約に基づき代議員総会を開いて賃上げ、諸手当の新設・増額、労働時間の短縮等二二項目にわたる春闘要求事項を決定した上、四月五日第一回団交の席上、会社に対し右要求を提示・説明し、次いで上記1(一)に記載の通り同月一一日の代議員総会において争議権を確立し、翌一二日労調法三七条の争議行為通知を行つた。

(4) 組合は、四月一四日第二回団交の席上、会社に対し『要求を貫徹するため』『四月二二日以降妥結に至るまでの期間』『組合員のいる全職場』において『全面ストライキを含むあらゆる争議行為』を行う、『但し旅客・航空機の安全に必要な最少限の人員は争議に参加させない』旨を記載した争議行為予告文書を手交したが、会社側はこれを一読の上受領を拒否した。同月一九日組合は、委員長名をもつて組合員に対し同月二七日午後一時から午後二時までの間組合員全員による一時間の時限ストライキを行う旨の指令を発すると共に、会社に対して『四月二六日午前〇時より紛争終結に至るまでの期間、中央闘争委員及び数名の支部闘争委員、一般組合員を適宜指名ストライキに参加させ』『二七日午後一時より午後二時までの間一時間及び三〇日午後一時より午後四時までの間三時間、全組合員がストライキを行う』旨その他二二日以降組合員の腕章、リボン着用、二六日以降全組合員の時間外労働拒否等を記載した争議行為予告文書を送付した。

(5) 同月二六日第五回目の団体交渉が行われたが、会社は組合の前記諸要求項目中その一、二について若干の増額回答をしたのみで、他はゼロ回答であつた。そこで組合は、右交渉終了直前の午後一〇時になつて会社に対し、二七日午後一時より午後二時まで組合員全員による時限ストを行い、又同日午前〇時より三〇日午後一二時まで中央闘争委員一二名全員を指名ストに入れる旨通告した上、二七日以降前記の通り本件全員スト、中闘指名ストを行つた。組合は同日午前〇時から前記支闘指名ストをも行つたが、右ストライキの通告は、同日午前九時すぎ電話により、更に午後三時頃文書をもつて会社に伝達された。

(6) なお、会社は、組合に対し昭和三九年春闘及び年末闘争の際にも争議行為開始一〇日前にその具体的態様を会社に通告する旨の争議協定の締結を求めたが、組合はこれに応じなかつた。会社と全日本空輸乗員組合との間にはかねて右と同一趣旨の労働協約が締結されている。

(二)(1) そこで、まず一般に定期航空運送事業における争議行為が事業の公益性の故に特別の制約を受けるか否かについて判断するに、前判示の通り争議権は憲法の保障する労働者の基本権であるから、公共の福祉のためこれを制限をするには特別の立法を必要とするものと解すべきところ、定期航空運送事業は、労調法八条の公益事業としてその労働関係につき同法の規制を受け、同法三七条以下の規定によつて争議行為につき一定範囲の制約を免れないけれども、他に右事業に従事する労働者の争議権を制限する特別の立法は存しない。

(2) しかし、そのことは公益事業の労働者の争議権行使が争議行為の態様・手段等において著しく社会的妥当性を欠き争議権保障の本来の目的を逸脱すると認められる場合に権利乱用としてそれが違法視されることを否定するものでないことは勿論であつて、右権利乱用の成否を判断する資料として当該事業の業種・業態等に存する特殊事情が斟酌されることは、一般私企業の争議行為の場合におけるそれと格別異なるところはない。

(3) 以下、右の観点に立つて検討するのに、

イ、会社の営む定期航空運送事業が多数旅客の利用に供せられ、定期便に欠航や遅延が生ずる場合、公衆・特に予約客に少からぬ不便・支障を蒙らせ、殊に右欠航・遅延が会社において数日前から予知できない状況の下に生じた場合、会社の業務に混乱を来し、旅客の不便・支障も加重されることは、前認定の通りである。しかしながら、争議行為は本来的に使用者に対し業務運営の阻害を伴うものであり、争議行為が認められている以上、それにより或る程度業務上の支障混乱を招くことは、公益事業についてもやむを得ないところである。その結果一般公衆の蒙る被害の防止については、法は前記労調法に定める争議権制約の限度をもつて公共の福祉上やむを得ないものと認め、且つそれをもつて足りるとしたものと解すべきである。従つて、争議権乱用の成否を論ずるに当り、労調法の要求する限度を超えて公衆に及ぼす被害の点を重視するのは妥当でなく、本件争議行為が労調法の要求する争議行為予告の手続を経たものであることは、前判示の通りである。

ロ、一般に争議行為の時期・方法・範囲は、争議戦術の問題として労働組合の自主的な選択に委ねられているものと云えるけれども、これら争議行為の態様ないしその選択が、有利な労働条件獲得のための実効的手段であると云う争議行為本来の目的を越えて、企業の存立自体を危くする結果を招来し、或いは専ら使用者に対する加害を意図したものであるときは、右争議行為は労使間の信義則違背ないし争議権の乱用として違法なものと云うべく、このことは使用者に対する争議行為通知の時期に関しても同様である。

本件の場合についてみるのに、(イ)組合は四月一四日、一九日の二回にわたつて会社に対し前記(一)(4)の通り争議行為の予告を行つており、殊にその後者においては、争議行為の方法(全員及び指名のストライキ)を明確にするほか、全員ストについては正確な実施時限を、中闘及び支闘指名ストについても蓋然的な実施期間を一週間前の予告をもつて明らかにしているのであるから、会社として起り得べきストライキに処して一応の対策を講ずる暇は与えられていたものと云える。そして、本件全員ストについては重ねてその前日に、又中闘指名ストの具体的実施については二時間前に予告されており、ただ午前〇時開始の支闘指名ストは当日午前九時頃になつて通告されているけれども、右通告の時刻は一般の就業開始時直後と推測されるから、右時刻まで通告がなされなかつたことをもつて、一途に組合の背信性の顕われとみるのは相当でない。これを要するに、組合が会社に対してした本件争議行為の通告は、その時期、内容において労使間の信義に反した不当なものとは直ちに断じ難い。(ロ)本件争議行為の態様、特に中闘及び支闘指名ストの具体的通告が開始の直前又は事後になされたことによつて、一般のストライキから生ずる通常の損害以上に会社が特別の実損害を蒙つた具体的事実については、その主張も疎明もない。のみならず、右指名ストについても前記の通り会社において一応準備対策を講じ得る程度の概括的予告はなされているのであり、上記スト実施の態様によつて会社の業務上の支障、旅客の不便・不満がある程度加重されたことはあつたとしても、そのため企業の存立の基盤を危くする程の著しい信用喪失、その他の重大な損害が直ちにもたらされるものとは考えられない。(ハ)組合が運航便の乗員を除く従業員の大部分を組織しているとしても、本件争議行為につき前記のような態様をとることが、組合の要求貫徹のため全く実効のない非合目的な行為であるとは認められず、従つてこの点から本件争議行為に出た組合の意図が専ら会社に対する積極加害を目的としたものと云うことはできない。なお、組合が本件争議以前から会社側の争議行為予告に関する協定締結の要求を拒み続け、或は同一企業内の乗員組合の労働協約に右予告に関する条項が設けられていることを了知していた等の事情も、本件争議行為の態様に関して組合の害意ないし背信の意図を推測させる資料とはならない。

(三) 以上を総合して考えると、本件争議行為はその態様において、争議権の乱用にわたる違法なものと断ずることは困難である。

三、結論

(一)  以上要するに、組合の本件争議行為が違法不当であるとする被申請人の主張はその根拠がなく、従つて右争議行為を企画・実施したことを理由とし就業規則の懲戒条項を適用してした本件申請人らに対する解雇は、正当な争議行為を理由とするものであるから労組法七条一号、民法九〇条により無効である。

(二)  申請人らの解雇当時の一ケ月の平均賃金が各申請人ら主張の通りであること、五月分以降賃金の支払がなされていないこと、賃金の支払日が毎月二五日であることは当事者間に争いがないから、申請人らはいずれも被申請人に対し労働契約に基づく従業員としての地位を引続き保有し、右所定相当額の賃金の支払を受ける権利があるところ、疎明によれば、申請人らは賃金により生活していたものであり、解雇後賃金が支払われないため生活に窮していることが認められるので、本案判決に至るまで被申請人から従業員として取り扱われず賃金の支払を受けられない場合には著しい損害を蒙ることは明らかであるから、申請人らの求める仮処分はその必要性がある。

四、よつて、申請人らの主張はすべて理由があるから保証をたてさせないでこれを認容し、訴訟費用については民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 橘喬 高山晨 田中康久)

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